倉吉 アザレアのまち音楽祭
山陰の名手たちコンサート


第7回 山陰の名手たちコンサート
ごあいさつ


 「ありのままを聴く

 プラバホール アートディレクター 副館長 長岡 愼
 本日はご来場を賜りありがとう存じます。
 東京の友人知人に送って喜ばれるのが松江の和菓子。特に彩雲堂の「露堂々」は大人気です。本番前の糖分補給に、また洗練された上品な甘さで心が温かくなり、静かな闘志がわきあがるなどと大変喜ばれています。彩雲堂のホームページによりますと、この和菓子の名前の由来は、禅語「明歴々露堂々めいれきれきろどうどう」で「嘘偽うそいつわりなく堂々と現れている大自然を、無心に眺(なが)める心境」を表しているそうです。
 映画やテレビでの大自然番組や旅番組などで、出演者がいみじくも漏らす言葉「実際に見ると違いますね!」。メディアの映像はメディアの意思や感覚が働いています。番組製作者や撮影者が見せたいと思ったもの、或いは魅せられたもの、ですよね。音楽番組でも次のソロ奏者の演奏を見たいと思っていても、伴奏者や指揮者を映されてがっくり、なんてことありませんか。人によって興味関心は違って当たり前。ましてや偏見やこだわりを捨てて、曇りのない目でありのままの世界を見ようとする態度「明歴々露堂々」とは全くかけ離れたものと言わざるを得ません。
 本日私たちの前に「明らかに堂々と露わになる」山陰の名手たちの生演奏、プロフィールや曲目解説もご覧いただき、全身を耳にしてありのままを味わっていただきたいと思います。演奏者はきっと「露堂々」を口にしてから演奏しますよ。斯うご期待!
 最後になりましたが、本日の出演者は推薦者の慧眼によって島根、鳥取両県から選ばれた方々です。ご推挙いただきました先生方には、誠にありがとう存じます。
 それではごゆっくりお楽しみください。




 「ホールがゆれる 「気」がゆれる

 アザレアのまち音楽祭 ディレクター 計羽孝之

 山陰の名手たちコンサートにお出かけいただき、ありがとうございます。このコンサートは、前身の「鳥取県の音楽家たちコンサート」から引き続き、毎年11月23日に開催して、今年で18年目を迎えます。山陰の地に住まうクラシック音楽愛好家の皆さんのご支援で継続できたものと感謝いたしております。
 私の大好きなミュージカルに「ハロー・ドーリー」がありますが、その中で「ゆれている、部屋がゆれている」というフレーズが気に入っています。毎年やってくる「山陰の名手たちコンサート」は、その懐かしい音楽のように、私の心を「揺らし」、なにかしら心のギャップを埋めてくれる「気」がします。それはルーチンワークを脱した演奏家たちの、真摯な取り組みが、耳に心地よく、心を癒す力を秘めた音の魂を感じさせてくれるからです。私たちは、聴く人の感性に、聴く人の命に「揺らぎ」のような働きかけをし、強い衝撃を与えてくれる音楽の力を求めているのかもしれません。
 この美しい自然の山陰に住まう演奏家たちが、音楽の使徒として理想を追い求め、凄まじい葛藤の中で悩み苦しみ、まるで修羅場を体験した者にしか得られない何かを、つかんでいるのでしょうか。ただ巧いだけの演奏はごまんと居ます。しかし、音楽はやればやるほど深く、突き詰めるほど厳しいものです。だからこそ音楽は、私たちの心を揺らすのです。命を感じさせ、瑞々しい感性を感じさせてくれるのです。心に潤いを持てば、私たちの感受性は掘り下げられ、豊かになるのです。
 私たちには、わかるのです、山陰の地に住まう演奏家たちが、誇らしく輝いているのが。その演奏に、私たちはゆれるのです。心という「気」が、命という「気」が、聴衆の「気」と、演奏者の「気」がホールの中でぶつかり、揺れるのです。そして、その時、初めて音楽が芸術になるのです。