曲目解説
早川正昭のこと
1934年生れの作曲家、指揮者。広島大学名誉教授、新ヴィヴァルディ合奏団常任指揮者。千葉県出身。早くから音楽の才能を示し、6歳で最初の曲を書いたといわれる。東京大学で農学を学んだ後、東京芸術大学で長谷川良夫に作曲を、渡邉暁雄に指揮を学び、1960年に卒業した。1961年に東京ヴィヴァルディ合奏団を創立し、日本のみならずヨーロッパ各地で公演を行った。その後、新ヴィヴァルディ合奏団を設立する。作品は西洋の楽器や技術を使用しながらも、日本の伝統音楽の影響を受けている。名古屋音楽大学、広島大学、聖徳大学の教授を歴任。
「日本の四季」のこと
ヴィヴァルディの四季を鋳型に、日本の民謡・童謡を取り入れてバロック風の作品に仕立てたもの。今回は、その中から『春』より第1楽章「花」、第2楽章「さくらさくら」、『夏』より第3楽章「海」の3曲を選んで演奏します。
ショパンのこと
フレデリック・フランソワ・ショパン(ポーランド語: Fryderyk Franciszek Chopin、1810年頃の生まれであり、ポーランド出身の、前期ロマン派音楽を代表する作曲家です。当時のヨーロッパにおいてもピアニストとして、また作曲家としても有名であり、その作曲のほとんどをピアノ独奏曲が占め、ピアノの詩人と呼ばれました。様々な形式・美しい旋律・半音階的和声法などによってピアノの表現様式を拡大し、ピアノ音楽の新しい地平を切り開いていったのです。夜想曲やワルツなど、今でも彼の作曲したピアノ曲はクラシック音楽ファン以外にもよく知られています。これらの情熱的かつダイナミックな曲はクラシックピアノを学ぶ者の憧れであり、大きな目標となっている。そのためピアノの演奏会において取り上げられることが多い作曲家の一人です。2010年には、ショパンの肖像を使用した記念紙幣が発行されたり、ポーランド最大の空港が「ワルシャワ・ショパン空港」に改名さるなど国民から敬愛されている。
ピアノ協奏曲1番のこと
この作品 ホ短調 作品11は、1830年に完成されました。標記では第1番となっていますが、実際は2番目に作られたと言われています。この曲を第1番として最初に出版したのはショパンがこの曲を自信作だと考えていたからだと言われます。この作品は彼の故郷ワルシャワへの告別と、飛翔の意味が込められているといわれ、協奏曲としては処女作であり、ロマンティックな情念と創意にあふれています。現代では「ピアノ6重奏版・バージョン」も出版されており、最近はよく演奏されます。今回はピアノ6重奏版を弦楽合奏に拡大したアンサンブルで演奏いたします。
第1楽章 Allegro maestoso ホ短調 3/4拍子
第2楽章 Romanze, Larghetto ホ長調 4/4拍子
第3楽章 Rondo, Vivace ホ長調 2/4拍子
ヴィヴァルディのこと
アントニオ・ルーチョ・ヴィヴァルディは1678年3月4日生まれで、現在はイタリアに属するヴェネツィア出身のバロック音楽後期の著名な作曲家の一人、ヴァイオリニスト、ピエタ院の音楽教師、カトリック教会の司祭、興行師、劇場支配人でもあったと言われます。多数の協奏曲の他、室内楽、オペラ、宗教音楽等を作曲。現代ではヴァイオリン協奏曲『四季』の作曲者として広く知られています。
「和声と創意の試み」op.8より「四季」のこと
『和声と創意の試み』作品8は、ヴィヴァルディの最も有名な曲である『四季』を含んだ曲集で、1724年から1725年頃にオランダ、アムステルダムで出版されました。ヴィヴァルディは1724年からモルツィン伯の「イタリアの音楽のマエストロの肩書」でモルツィン伯の庇護を受け、俸給を受け取っていた。ヴィヴァルディは、モルツィン伯へ定期的に楽曲を提供することと、伯爵がヴェネツィアを訪問した際に、伯爵の楽団で演奏を披露したと考えられます。
楽器編成は、独奏ヴァイオリン、第1,2ヴァイオリン、ヴィオラ、通奏低音(オルガン、チェロ)です。
今回はチェロとコントラバスにチェンバロで演奏します。通奏低音のオルガンは小型のパイプオルガンを指しますが、ヴィヴァルディの時代にはチェンバロを含む鍵盤楽器全般を指したようで、『秋』の第二楽章の通奏低音のパートには「チェンバロはアルペッジョで」という指示が書き込まれていたりします。
協奏曲 第1番 ホ長調 RV 269『春』
第1楽章 アレグロ 春がやってきた。小鳥は喜び囀りながら祝っている。小川がせせらぎ、風が優しく撫でる。春を告げる雷が轟音を立て黒い雲が空を覆う。そして嵐は去り小鳥は甲高い声で歌う。鳥の声をソロヴァイオリンが高らかにそして華やかにうたいあげている。
第2楽章 ラルゴ 草原に花は咲き乱れ、空に伸びた枝に茂った葉はガサガサと音を立てる。羊飼は眠り、忠実な猟犬は私のそばにいる。弦楽器の静かな旋律にソロヴァイオリンがのどかなメロディーを奏でる。ヴィオラの低い音が吠える犬を表現している。
第3楽章 アレグロ 陽気なバグパイプにニンフと羊飼いが明るい春の空の下で踊る。舞い踊る空の上には夏の匂いがたなびき始めていた。
協奏曲 第2番 ト短調 RV 315『夏』
第1楽章 アレグロ・ノン・モルト - アレグロ かんかんと照りつける太陽の絶え間ない暑さで人と羊の群れはぐったりとしている。松の木も燃えるように熱い。カッコウの声が聞こえる。そしてキジバトの囀りが聞こえる。北風がそよ風を突然脇へ追い払う。やって来る嵐が怖くて慄く。ヴァイオリンの一瞬一瞬の“間”に続いての絶え間ない音の連続が荒れる嵐を表現している。
第2楽章 アダージョ 稲妻と雷鳴の轟きで眠るどころではない。ブヨやハエが周りにすさまじくブンブン音を立てる。それは甲高い音でソロヴァイオリンによって奏でられる。
第3楽章 プレスト(夏の嵐) 嗚呼、彼の心配は現実となってしまった。上空の雷鳴と雹(ひょう)が誇らしげに伸びている穀物を打ち倒した。
協奏曲 第3番 ヘ長調 RV 293『秋』
第1楽章 アレグロ(小作農のダンスと歌) 夏の季節が終わり、嵐の心配もなくなった。小作農たちが収穫が無事に終わり大騒ぎ。ブドウ酒が惜しげなく注がれる。彼らは、ほっとして眠りに落ちる。
第2楽章 アダージョ・モルト(よっぱらいの居眠り) 大騒ぎは次第に鎮まり、酒はすべての者を無意識のうちに眠りに誘う。チェンバロのアルペジオに支えられてソロヴァイオリンは眠くなるような長い音を弾く。
第3楽章 アレグロ(狩り) 夜明けに、狩猟者が狩猟の準備のためにホルンを携え、犬を従える。獲物は彼らが追跡している間逃げる。やがて捕まった獲物は傷つき犬と奮闘して息絶える。
協奏曲 第4番 ヘ短調 RV 297『冬』
第1楽章 アレグロ・ノン・モルト 寒さの中で身震いしている。足の冷たさを振り解くために歩き回る。辛さから歯が鳴る。ソロヴァイオリンの重音で身震いを表現している。
第2楽章 ラルゴ 外は大雨が降っている、中で暖炉で満足そうに休息。ゆっくりしたテンポで平和な時間が流れる。
第3楽章 アレグロ 私たちはゆっくりと用心深く、つまづいて倒れないようにして氷の上を歩く。しかし突然、滑って氷に叩きつけられた。氷が裂けて割れ、頑丈なドアから出ると外はシロッコと北風がビュービューと吹いていく。今はそんな冬だがもう吹く風には春の匂いが漂い始めていた。
■オーケストラ・プロフィール
アザレア室内合奏団
ヴァイオリニスト「辺見康孝氏」は、アザレア音楽祭には学生時代から参加していましたが、ドイツ留学から帰国した直後から、本格的なソロ活動として音楽祭に参加されています。アザレア音楽祭の旗頭であったアザレア室内オーケストラの消滅後の、新しいオーケストラの設立に奔走していただき、バロック様式の「アザレア室内合奏団」を立ち上げていただきました。更に、管楽器を加えたオーケストラとして拡大し、とりアートオペラ「ヘンゼルとグレーテル」(2018年)、「ドン・ジョヴァンニ」(2022年)のオペラ・オーケストラとして活動していただきました。合奏団メンバーは、西日本でプロとしてソロ活動をしている奏者が結集しており、これまでにないハイ・レベルのアンサンブルを実現させ、聴衆より絶賛されています。その要因は、ヴァイオリンの名手として人気の高い「辺見康孝氏」を音楽監督とし、バロックオーケストラの緻密なアンサンブルで磨き抜かれたメンバー達が、その核となっているからです。今回も、室内弦楽オーケストラの魅力を十二分に楽しんでいただけます。室内弦楽オーケストラとして高く評価されている弦楽合奏の緻密さと力強さを聴かせてくれるものと期待しています。
■演奏者プロフィール
【ヴァイオリン】
辺見康孝 1st Violin (へんみ やすたか)
松江市生まれ。現代の作品を得意とし、独自の奏法を開発し従来の奏法では演奏不可能な作品もレパートリーとしている。これまでに日本をはじめベルギー、オランダ、フランス、イタリア、ドイツ、デンマーク、ノルウェー、スロヴェニア、ハンガリー、オーストラリア、アメリカ合衆国、カナダ、メキシコ、南アフリカ共和国、韓国、香港で演奏活動を行っており、様々な国際音楽祭に招待されている。
2001年より2年間はベルギーのアンサンブルChampdActionのヴァイオリニスト、 帰国後はnext mushroom promotionや武生アンサンブルのヴァイオリニストとして精力的に演奏活動を行う他、ハーピスト松村多嘉代とのデュオX[iksa](イクサ)ではオリジナル曲やオリジナルアレンジで新たな境地を開拓している。
2004年にMegadisc(ベルギー)からリリースされたソロCD、数々のX[iksa]アルバムの他、多数のCD録音に参加している。
三島文佳 1st Violin (みしま ふみか)
松江市出身。愛媛大学教育学部芸術文化課程(ヴァイオリン専攻)を卒業。今岡康代、三上徹、大野裕司の各氏に師事。松江市で3度のソロリサイタルを開催。山陰フィルハーモニー管弦楽団のゲストコンサートミストレスを務める。山陰フィルジュニアオーケストラ、しまねシンフォネット弦楽キャンプの指導に携わるほか、ソロや室内楽、県内外のオーケストラにおいて幅広く演奏活動を行う。
田春花 1st Violin
(たかた はるか)
全日本学生音楽コンクール北海道大会課題曲コース高校の部 第2位(1位該当者なし)。日本クラシック音楽コンクール全国大会大学の部 第5位。札幌市民芸術祭新人音楽学会にて大賞を受賞。小澤征爾音楽塾に参加。京都市立芸術大学を卒業後、兵庫芸術文化センター管弦楽団に入団しフォアシュピーラー兼コンサートミストレスを務める。現在は同団を退団し関西のオーケストラを中心に活動中。
これまでに豊嶋泰嗣氏に師事。
柳楽 毬乃 2nd Violin
(なぎら まりの)
出雲市出身。6歳よりヴァイオリンを始める。京都市立芸術大学を経て、同大学院音楽研究科修士課程器楽専攻(弦楽)を首席で修了。在学時になかうみ交響楽団とメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を共演。東京国際芸術協会より受講費全額助成を受け、ウィーン国立音大マスタークラスへと派遣される。第8回松江プラバ音楽コンクール第1位及びコンクール大賞受賞。第16回KOBE国際音楽コンクール優秀賞他受賞多数。「佐渡裕とスーパーキッズ・オーケストラ 」に3年間在籍。
第71回全国植樹祭しまね2021にて御前演奏。また「題名のない音楽会」などに出演するなど、幅広く活動を行なっている。これまでにヴァイオリンを井川晶子、芦原充、玉井洋子、玉井菜採、豊嶋泰嗣、田村安祐美の各氏、ヴィオラを小峰航一氏、室内楽を上森祥平、Albert Lottoの各氏に師事。
元大阪フィルハーモニー交響楽団契約団員1stヴァイオリン奏者。
吾藤早桜 2nd Violin (ごとう さくら)
山口県山口市出身。京都市立京都堀川音楽高等学校、京都市立芸術大学音楽学部弦楽専攻を卒業。これまでにヴァイオリンを石井志都子、木村和代、沼田園子、泉原隆志の各氏に師事。オーケストラ客員をはじめ、スタジオレコーディング、ポップスへの参加など、様々なジャンルで音楽活動をしながら後進の指導にもあたっている。
山森温菜 2nd Violin (やまもり はるな)
5歳よりヴァイオリンを始める。18歳まで相愛大学附属音楽教室に在籍。京都市立芸術大学弦楽専攻卒業、卒業演奏会に出演。これまでにヴァイオリンを小ア恵理子、大谷玲子の各氏に師事。第25回KOBE国際音楽コンクールC部門最優秀賞及び兵庫県教育委員会賞など多数受賞。今福音楽堂レジデントアーティスト。2022年に無伴奏ソロリサイタルを開催。また同年12月より日本センチュリー交響楽団の契約団員を務める。
【ヴィオラ】
坪之内裕太 Viola (つぼのうち ゆうた)
4歳からヴァイオリンを始める。2014年に樫本大進プロデュース「ル・ポン国際音楽祭2014」のプレコンサートにヴィオラで出演。小樽ヴィオラマスタークラスで今井信子氏に師事。現代音楽を主に演奏するへんみカルテットヴィオラ奏者。Reise Kammer Orchester 副代表。一般社団法人Reise 理事。音楽寺子屋ヴィオラ講師。ヴァイオリンを菊池佳奈子、ヴィオラを杉山雄一、山本由美子、小峰航一各氏に師事。三田学園高校卒業。京都市立芸術大学ヴィオラ専攻卒業。
神谷将輝 Viola (かみたに まさき)
大阪府立夕陽丘高校音楽科卒業。相愛大学音楽学部卒業。同大学卒業演奏会出演。第25回ヴィオラスペース2016大阪出演。相愛ジュニアオーケストラ講師。ヤマハ音楽教室講師。シンフォニア・コレギウムOSAKA メンバー。Nature Ensemble メンバー。これまでに、坪井一宏、高橋満保子、森田玲子の各氏に師事。関西を拠点に、室内楽、オーケストラ等での活動を行なっている。
【チェロ】
谷口晃基 Violoncello
(たにぐち こうき)
福岡県北九州市出身。10歳よりチェロを始める。これまでに加治誠子、上村昇の各氏に師事。京都市立芸術大学を卒業。琵琶湖フィルハーモニー管弦楽団とドヴォルザークのチェロコンチェルトを共演。草津夏季国際アカデミーにてヴォルフガング・ベッチャー、タマーシュ・ヴァルガのレッスンを受講。現在、プロオケへの客演や室内楽を中心に関西で活動中。
大熊勇希 Violoncello (おおくま ゆうき)
兵庫県三田市出身。10歳よりチェロを始める。京都市立芸術大学卒業。スイス国立チューリッヒ芸術大学大学院修了。第2回いかるが音楽コンクール音大生の部1位。第31回 日本クラシック音楽コンクール 全国大会 室内楽部門にて最高位。2023年西宮交響楽団、輝音管弦楽団とソリストとして共演。三田市総合文化センター郷の音ホール第6期レジデンシャルアーティスト。NHKうたコン(大阪回)生出演中。御影高校弦楽部、神戸大学オーケストラのチェロ講師。ひばり音楽教室、今福音楽寺子屋、宝塚ミュージックリサーチで講師を務め生徒数は総勢40名を数える。演奏家として、指導者として音楽、チェロの魅力を伝える為に邁進中。
【ダブルベース】
神庭智子 Double bass (かんば さとこ)
武蔵野音楽大学卒業。コントラバスをZ・ティバイ氏、黒木岩寿氏に師事。室内楽セミナー「秋吉台の響き」2014~2018マスターコース受講。2011年、2014年日本クラシック音楽コンクール第5位入賞。現在、オーケストラ、室内楽に加え、コントラバスソロの演奏活動を行っている。2015年7月米子管弦楽団とクーセヴィツキーのコントラバス協奏曲を共演。とっとりチェンバーオーケストラ・メンバー。鳥取市出身、米子市在住。
ご案内
アザレア音楽祭の祝祭オーケストラがバロックスタイルの「アザレア室内合奏団」に変わって10年目となります。学生時代からアザレア音楽祭に参加していただいていた「辺見康孝氏」を音楽監督として依頼し、このオーケストラを主宰していただいています。これまで毎年、プロ集団ならではの高い音楽性と、圧倒的に高度な演奏を聴かせていただきました。
今回は、聴衆の皆様からの強い要請のあつたピアノ協奏曲を登場させます。毎年素晴らしく高度なテクニックと共に、聴く者の心を震わす演奏を披露し続けているピアニストの「重利和徳さん」に、ショパンのピアノ協奏曲第1番をお願いしました。今回は、ピアノ6重奏版として出版されている曲を、室内楽版としてショパンをお聴きいただきます。今年の目玉は、なんと言ってもヴィヴァルディの「四季」全曲です。これは2017年度以来8年ぶりの再演です。アザレア室内合奏団にとって、最も重要なレパートリーであり、エースパック未来中心大ホールの豊かな響きのなかでは、特に演奏効果の高い曲目であります。ソロヴァイオリンの辺見氏の名人芸と新田氏によるチェンバロの通奏低音をお楽しみください。