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アザレア弦楽四重奏団演奏会
1stVn伊藤明、2ndVn西原麻衣子、Va井川晶子、Vc原田友一郎
2013年5月18日(土)19:30〜 倉吉博物館玄関ホール 700円
第一部
○ハイドン/弦楽四重奏曲第72番ハ長調作品74−1
フランツ・ヨーゼフ・ハイドンは、古典派を代表するオーストリアの作曲家で、数多くの交響曲や弦楽四重奏曲を作曲し、「交響曲の父」「弦楽四重奏曲の父」と呼ばれている。この曲が作曲されたのは、ハイドンが61歳の1793年(モーツァルトが35歳で亡くなった2年後)。ウィーンのエステルハージ侯爵の宮廷で約30年間も楽長を務めた彼は、1790年秋にその職を離れ、ロンドンに旅行して次第に名声を高めた。その円熟期に、アポニー伯爵からの依頼で弦楽四重奏曲第69〜74番の「アポニー四重奏曲集」を作曲した。伯爵はヴァイオリンの名手でもあり、仲間を集めて音楽会を催したりして、フリーメイソンを通してハイドンの友人となる。
この曲集は、ハイドンらしく整然とした幾何学的な構造と、ロンドン旅行の影響による曲調の華やかさが特徴的である。また、第2主題に第1主題と共通の動機を使いながらも性格をきちんと分けていて、古典派のソナタ形式が見事に完成されている。この第72番では半音階や半音階的な転調がかなりモダンな印象を与える。しかも協奏曲のような技巧的パッセージ(ヴァイオリンによる10度跳躍)が盛り込まれていて、華麗な演奏効果を上げている。4楽章ではドローン音(変化のない長い単音)が効果的に使われている。
1. Allegro Moderato
2. Andantino grazioso
3. Menuetto Allegretto
4. Finale Vivace
第二部
○シューベルト/弦楽四重奏曲第13番イ短調 D804 「ロザムンデ」
シューベルトの晩年(とはいえ27歳)、1824年2月〜3月に作曲されたこの曲は、第12番「四重奏断章」、第14番「死と乙女」と共に、霊感に満ちた傑作である。当時の彼は精神的危機から脱け出していたが、まだ人生への悲観的な見方(諦観)の中にいて、この曲にも暗く寂しく情感が影を落としている。曲の構成はモーツァルトやベートーヴェンと同様に古典的だが、内容面では大きく異なり、ロマンティックな情趣に溢れている。
第1楽章(Allegro ma non troppo)
… 詩人シューベルトの繊細な感情の揺れを象徴するようなアルペジオで始まり、メランコリックな第1主題が連綿と歌われる。この主題は彼の初期の歌曲『糸を紡ぐグレートヒェン』からの転用。展開部は第1主題に基づいて短調で始まり、次第に緊張感を増していく。
第2楽章(Andante)
… シンプルな第1主題は、前年に作曲した劇付随音楽『キプロスの女王ロザムンデ』の間奏曲の主題から転用したもの。1楽章とは対照的に平和な気分が漂う。夢見るように柔らかい明るさとほの暗さが、交錯しながら儚く(はかなく)移ろいゆく風情は筆舌に尽くしがたい。
第3楽章(Menuetto−Allegretto−Trio)
… 不安な情感が漂うメヌエット。この主題も彼の歌曲『ギリシャの神々からのストローフ』の伴奏部分からの転用。チェロの孤独なモノローグで始まり、転調が繰り返されて幻想的な雰囲気となる。中間部では暖かい優しい光が差し込み、幸福な感情に包まれる。
第4楽章(Allegro moderato)
… 彼の曲の最終楽章でしばしば現れるハンガリー風の楽章。まず民族舞曲風の旋律がリズミカルに展開する。哀愁の漂う寂しげな表情と揺れ動くリズムが印象深い。@−A(短調)−B−@’−A(嬰ヘ短調)−Bという構成で、@’での展開は特に充実していて完成度が高い。
プロフィール
アザレア弦楽四重奏団
1988年結成。松江を中心に各地でのコンサート・イベント・ウェディングなど、通算約700ステージの演奏活動を展開する、山陰随一の弦楽四重奏団。1991年からアザレアのまち音楽祭に出演(23回目)。1991年全国育樹祭で、皇太子殿下ご臨席のもとで演奏して称賛を博す。1995年ねんりんピック開会式出演。2002年日英グリーン同盟植樹式で記念演奏。2005年島根県立美術館「名曲で飾るロビーコンサート」出演。2011年島根県指定文化財・興雲閣で嘉仁親王(後の大正天皇)の明治40年山陰行啓ゆかりの音楽を再現。クラシックから映画音楽・ポップス全般、歌謡曲や日本のメロディまで幅広いレパートリーを縦横に組み合わせた楽しい選曲、そして4人という自由気軽なアンサンブルのスタイルがリスナーから支持されている。
ご案内
アザレアのまち音楽祭の中で、アザレア弦楽四重奏団は最古参の演奏団体です。元々の団体名はアクエリアス弦楽四重奏団ですが、アザレアのまち音楽祭のフランチャイズとして「アザレア弦楽四重奏団」の名称がすっかり定着しています。伊藤明氏が率いるこの弦楽四重奏団は、音楽祭に登場して以来間もなく四半世紀になろうとしています。その間、メンバーは様々に交代しましたが、その音楽性は一本筋の通ったものがあります。それは、伊藤氏の音楽にかける情熱のほとばしりであり、若い時代に夢見た音楽の理想を演奏によって形象化しているからだと思います。毎年感じるのは、音楽がよく練られているということです。技術的に解決できなくても、音楽的に解決してみせる音楽の聴かせ方が見事なのです。私たちは、倉吉市と言う地方都市に住まいながら、クラシック音楽の原点と言われる弦楽四重奏を聴き続けることが出来る幸せを噛みしめています。今年もまた、ハイドンとシューベルトに出会えると思うと、わくわくします。皆様もどうぞ、お出かけください。