スポンサー:藤井たけちか内科
アザレア室内オーケストラ演奏会
指揮/松岡 究
ピアニスト/新田恵理子
演奏/アザレア室内オーケストラ
2013年5月12日(日)14:00〜 倉吉未来中心大ホール 700円
@ モーツァルト作曲/オペラ「コシ・ファン・トゥッテ」序曲
このオペラは、一昔前まで『女はみんなこうしたもの』と訳されていましたが、やや差別的なこの呼び方は今では使わなくなりました。初演当時から婚約者がいるにもかかわらず、別の男性に恋する物語は「不道徳」とされ、かの堅物ベートーヴェンはこの作品を嫌っていたと言われています。しかし、近年では男女の機微、真実の愛にまで踏み込んだ深い洞察と示唆に満ちた作品、因襲的な婚約からの女性の解放を謳う作品として高く評価されたりしています。
《コシ・ファン・トゥッテ》は《フィガロの結婚》、《ドン・ジョヴァンニ》に続くモーツァルトのオペラであり、「コシ・ファン・トゥッテ」のタイトルは《フィガロの結婚》中の台詞から採られたものです。前出の2作で男が浮気で痛い目に遭う内容なのとは対照的に、このオペラは女の浮気を題材としているのです。
この頃のモーツァルトは妻と自身の弟子の浮気で悩んでいて、音楽にはその苦悩が反映しているなどと言う説もありますが、全くあてになりませんが、話としては出来過ぎているようです。この序曲は滑稽とも思える曲調の中から突如現れる短調のカデンツの痛々しい感興が、モーツァルトの悩みだと思えるからでしょう。いずれにしても、抜き差しならぬ男と女の性をコメディーとして書いたところがモーツァルトの面目躍如たるものなのでしょう。
A ショパン作曲/ピアノ協奏曲 第2番 ヘ短調 作品21
ショパンのピアノ協奏曲は第1番ホ短調と第2番ヘ短調の2曲があります。先に作曲されたのはヘ短調の方でしたが、出版の順序は後に書かれたホ短調の方が先になったため、現在はホ短調の方が第1番、へ短調の方が第2番となっています。 先に書かれたピアノ協奏曲第2番は、初恋の人コンスタンツィヤ・グワトコフスカへの恋慕の情、憧憬が色濃く現れているといわれます。しかし、何よりも豊かな詩情とファンタジーを持った楽想が、豊かな感興に乗って流れる様は、聴く人を陶酔させる魅力を持っています。ショパンの協奏曲については管弦楽法の未熟さがよく取沙汰されますが、いずれも、そのような欠点を補って余りあるほどの天才的な閃きに満ちています。若いショパンにして初めて書くことのできた初々しい作品であり、彼の若き日の傑作と言ってよいでしょう。
第1楽章 Maestoso ヘ短調 4/4拍子
協奏風ソナタ形式。オーケストラによる提示部は、問いと答えのような第1主題、オーボエによって提示される変イ長調の第2主題からなり、独奏ピアノがドラマティックに登場すると、熱い音楽が繰り広げられます。再現部では第2主題は提示部と同じく変イ長調で再現されるのが特徴。最後はヘ長調で終結します。
第2楽章 Larghetto 変イ長調 4/4拍子
三部形式。この楽章は、当時ショパンが恋心を抱いていた、コンスタンツィヤ・グワトコフスカへの想いを表現したと友人ティトゥス・ヴォイチェホフスキ宛ての手紙で述べています。中間部は変イ短調に転じ、弦の刻みの上にユニゾンで激しいレチタティーヴォ風の音楽が展開されます。
第3楽章 Allegro vivace ヘ短調 4/3拍子
コーダを持つロンド形式。ポーランドの代表的な民族舞踊であるマズルカ(特にオベレクの要素が強い)を基になっています。中間部は弦楽器にcol legno(弓の木の部分で弦を叩く)奏法が指示され、ピアノもユニゾンとなり、より民族的効果を高めています。コーダはヘ長調に転じ、ホルンのファンファーレにより、明るく華やかに終結します。
B ハイドン作曲/交響曲第104番 ニ長調「ロンドン」作品
ハイドンが作曲した最後の交響曲です。『ロンドン』の愛称は19世紀になってから付けられたものですが、この曲だけでなく12曲の「ロンドン交響曲」全てがロンドンに関係しているので、特別な意味はありません。初演は1795年5月4日の慈善コンサートで行われたといわれています。それは、ハイドンがこの日の日記に「すべての観客も私も余すところなく楽しんだ。」 と記しているためです。
第1楽章 Adagio - Allegro
ニ短調、4/4拍子 - ニ長調、2/2拍子。序奏付きのソナタ形式。
壮大なニ短調の序奏で始まります。提示部は弦楽器によるニ長調の第一主題の提示で始まり、イ長調に転調して第一主題を再び木管楽器で提示します。第二主題はイ長調で木管楽器と弦楽器で提示されます。提示部は小結尾で閉じ、第一主題の後半のリズムを使ってロ短調で始まる展開部に入ります。展開部はオーケストラの全奏で閉じて、再現部では第一主題がニ長調で再現され、最後はニ長調のコーダで終わります。
第2楽章Andante
ト長調、2/4拍子。単一主題による変奏風の三部形式。
ト長調の弦による主題で始まり、この後、イ短調とニ短調を経由した後、弦楽器とバスーンで主題が繰り返されます。中間部ではト短調や変ロ長調など様々な調に転調しますが、主題の旋律の要素が続きます。ト長調の属調に達した後、最初の部分が復帰し、残りの部分は最初の部分の変形であり、リズムがいくらか変化し、フルートを始めとした木管楽器の活躍が目立ちます。
第3楽章 Menuetto:Allegro
ニ長調、3/4拍子。メヌエットとトリオの複合三部形式。
メヌエット部分は三部形式(ABA)であり、Aでは主和音が強調されています。Bの部分は平行短調(ロ短調)や属調(イ長調)に転調します。トリオは変ロ長調で、オーボエやバスーンが長く用いられます。メヌエットのように、トリオの中間部は平行短調(この場合はト短調)が目立ちます。トリオは属調で締めくくられ、メヌエットに復帰するのです。
第4楽章 Finale:Spiritoso
ニ長調、2/2拍子。ソナタ形式。
元気の良い快速なソナタ形式です。持続低音が使われた民謡風の主題で始まりますが、これはクロアチア民謡に基づくといわれています。展開部は定型どおり主調の属調に落ち着きますが、再現部がすぐには始まらないのが異例だと言われます。その代わり、展開部は嬰ヘ短調の部分に続き、その後で直ちにニ長調の再現部が始まるのです。
指揮者プロフィール
松岡 究
(まつおか はかる)
成城大学文芸学部卒業。音楽を戸口幸策氏に、指揮を小林研一郎氏に、声楽を山田茂氏に師事。1987年東京オペラ・プロデュース公演、ドニゼッティ作曲「ビバ・ラ・マンマ」を指揮してデビュー。その後、1991年度文化庁在外派遣研修員として、ハンガリー国立歌劇場および国立交響楽団に留学。1992年スウェーデン・アルコンスト音楽祭に参加、さらにヨルマ・パヌラ教授よりディプロマを与えられた。2004年〜2007年ローム財団による在外派遣研修員としてベルリンにて研修。2009年東京ユニバーサルフィル専任指揮者、日本オペレッタ協会音楽監督にそれぞれ就任した。
鳥取県では、ミンクス室内オーケストラ(アザレア室内オーケストラ)の結成以来常任指揮者として数々のコンサートを指揮。特に毎年倉吉市で開かれる「アザレアのまち音楽祭」ではアザレア祝祭オーケストラとしてとの公演を指揮。その質の高さには定評がある。更に鳥取オペラ協会設立以来、その公演の指揮を担い、オペラ育成にも尽力している。特筆に値するのは、総合芸術たるオペラ、そして合唱、オーケストラと言う鳥取県の音楽文化の中核を担う指揮者として、鳥取県にとってかけがえのない宝物といっても過言ではない。
ピアニスト・プロフィール
新田 恵理子
(にった えりこ)Piano
武蔵野音楽大学音楽学部器楽科ピアノ専攻卒業 倉吉市在住。ピアノを故西岡光夫、長井充、徳川愛子、福井直敬、西川秀人の各氏に師事する。ソロリサイタル、室内楽、声楽・器楽の伴奏など、各地で幅広い演奏活動を行なっている。内外のオーケストラとの共演も数多く、そのうち、ザルツブルク室内オーケストラ、下北山弦楽オーケストラとのライブ録音が、カウベルホールよりCDリリースされている。後進の育成にも力を注ぎ、各地で門下出身の若手ピアニストが活躍している。全日本ピアノ指導者協会正会員、同鳥取県支部事務局、鳥取オペラ協会ピアニスト。ハーモニッシェの会主宰。
オーケストラ・プロフィール
アザレア室内オーケストラ
泊村在住の医師「吉田明雄氏」が主宰するプロ・アマ混成の極めてハイレベルな室内オーケストラである。設立当時から指揮を担当するプロの指揮者「松岡究氏」の薫陶を求め、各地のオーケストラから参集したメンバーによって編成されている。よりレベルの高い音楽の追究をしたいと、音楽家としての自立を求めるアマチュア奏者にプロ奏者がゲスト参加して、素晴らしい音楽を紡ぎ出す限りなくプロに近い演奏集団である。
アザレア室内オーケストラ・メンバー
1st,Vn : 吉田明雄、曽田千鶴、野村知則、井上志保、荒井ゆうき、宇賀田圭
2nd,Vn : 永江佳代、藤原才知、益尾恵美、小林圭子、北山三枝子
Va : 足立 淳、松永佳子、長田直樹、小西恵里、中村康平
Vc : 須々木竜紀、原田友一郎、中野俊也、、井上拓也
DB : 生田祥子、渡辺琢也、大津敬一
Fl : 稲田真司、古瀬由美子
Ob : 古川雅彦、上代 美樹
Cl : 杉山清香、柳楽由美子
Fg : 木村恵理、橋本美紀子
Hr : 小椋智恵子、山根和成
Tp : 森本菜奈視、玉崎勝守
Tb : 松本弘一
Timp : 福井蘭
ご案内
アザレア室内オーケストラが、初めて登場したのは1990年の事ですから、ことしは23回目となります。その時の演奏会は、NHKが中継録音してくれ、NHK-FMで放送してくれました。当時のアマオケとしては、群を抜いており、鳥取放送局勤務だった録音エンジニア吉川氏が本格的に収録し、CD化までしてくれました。それ以後オーボエの古川雅彦氏がデジタル録音し続け、貴重なアーカイブが残っています。特に昨年度は、ベートーヴェンの第九を公演し、全9曲が揃いました。しかしながら、その中でも、第1番や第4番、第8番などの名演が印象に残っています。そして、米子第九合唱団との共演によるモーツァルトの「レクイエム」は山陰で最高の出来だったと思います。次年度(2014年度)のオープニングには、再び米子第九合唱団によるロッシーニの「スパーバト・マーテル(悲しみの聖母)」が予定されています。
ところで今年のオーケストラ・コンサートには、久々に「新田恵理子氏」が登場します。山陰在住のピアニストで、コンチェルトの共演回数の多さでは、新田氏の右に出るものがいないほどのキャリアを持っています。しかし、今回は初体験のショパンを取り上げるについて、ご本人は第1番を選択されたのですが、オーケストラの都合(2管編成のアザレア室内オーケストラ)で、今回は2番を演奏いたします。第二番となっていますが、ショパンの初めてのコンチェルトであり、初々しさと天性の音楽性にあふれた作品であり、新田氏の熟練したテクニックで、新しい魅力にあふれた演奏になるものと期待しています。
最後のハイドンは、アザレア室内オーケストラにとっては十八番と言っていいほど手慣れたものです。このオーケストラの規模とその力量にマッチし、倉吉未来中心大ホールの響きの特性にマッチし、最高のハイドンが聴けるものと期待しています。