木村恵理ファゴット・コンサート
Piano 望月美希
2012年6月19日(火)19:30〜 倉吉交流プラザ 700円
第一部
@ ファゴットとピアノのためのソナタ(M. グリンカ作曲)
ミハイル・イヴァーノヴィチ・グリンカ(1804 - 1857)は国外で広い名声を勝ち得た最初のロシア人作曲家。近代ロシア音楽の父と呼ばれる。ウクライナ系。グリンカは、青年時代にイタリア、晩年にドイツに留学して、作曲理論を学んでおり、この間にはオペラよりも、器楽曲の創作を追究した。外国を回るうちに、徐々に彼のロシア人としてのアイデンティティが芽生え、ロシア的な作品を書きたいという願いが起きてくるようになった。初めて真のロシア的音楽をつくったといわれるグリンカの作品は、ロシアのその後の作曲界に重要な影響を与えており、とりわけ有名なのが「ロシア五人組」である。このグループはグリンカの指導力を受け入れて、はっきりとロシア的な特質のあるクラシック音楽を創造した。
A 歌劇「イワン・スサーニン」から(M. グリンカ作曲)
さし昇る太陽よ
グリンカの最初の歌劇は、「イワン・スサーニン」 という曲である。17世紀の初め、 ロシアに侵入したポーランド軍に追われていた ロマノフ王朝の初代皇帝を、農民イワン・ スサーニンが命をかけて助けるというものである。 スサーニンが殺される前に歌う悲痛なアリアが この「さし昇る太陽よ」である。
B ただあこがれを知る者だけが 作品6-6 (P. I. チャイコフスキー作曲)
チャイコフスキー作曲の歌曲「6つの歌」(1869年)の第6曲。ゲーテの長編小説「ヴィルヘルム・マイスターの修業時代」の登場人物ミニヨンが作中で歌う「ただ憧れを知る者だけが」に作曲したもの。甘美なメロディが心をとらえる。
C 「なつかしい土地の思い出」から(P. I. チャイコフスキー作曲)
メロディ 作品42-3
『なつかしい土地の思い出』作品42は、チャイコフスキーが1878年の3月から5月にかけて作曲した、ヴァイオリンとピアノのための小品集。1896年にアレクサンドル・グラズノフによって管弦楽法が施された。3つの作品から成り、「メロディ」はその一つ。優しく美しい旋律で、演奏会でも良く取り上げられる人気曲である。
D ヴォカリーズ 作品34-14(S. ラフマニノフ作曲)
セルゲイ・ラフマニノフの歌曲《ヴォカリーズ》 嬰ハ短調は、1912年に出版された、ソプラノまたはテノールのための《14の歌曲集》作品34の終曲のことである。母音「アー」で歌われる溜め息のような旋律と、淡々と和音と対旋律とを奏でていくピアノの伴奏が印象的である。また、さまざまな編成による器楽曲としても広く演奏されている。
第二部
@ グランド・コンチェルト ヘ長調(J. N. フンメル作曲)
ヨハン・ネポムク・フンメル(1778- 1837)は当時で言うハンガリー(現在はスロヴァキア)出身のオーストリア系作曲家、ピアニスト。作品は交響曲を除いてすべてのジャンルに跨り200曲以上にも上る。
T. Allegro moderato
U. Romanza (Andantino e cantabile)
V. Rondo (Vivace)
プロフィール
木村 恵理
(きむら えり)Fagotto
出雲市出身。島根大学卒業、同大学院修了。教育学部社会科研究室に在籍しながら数学も学び、大学院にて音楽に取り組む。ファゴットを吉田將、岡崎耕治、井上俊次、伊藤昇の各氏に、室内楽を手塚実氏に学ぶ。バッハとその周辺について丸山桂介氏の講義を受講中。国際教育音楽祭MMCJ 2009、2010で室内楽、オーケストラの研鑽を積み、LeipzigにてJ. M. Thome氏、MilanoにてO. Meana氏、Riva del GardaにてV. Zucchiatti氏のマスタークラスを受講。
これまでに出雲室内管弦楽団とヴィヴァルディの、ミンクス室内オーケストラ、出雲フィルハーモニー交響楽団とモーツァルトのファゴット協奏曲を共演。2011年にはリサイタルを開催するなど、中国地方を中心に積極的な演奏活動を続けている。「アザレアのまち音楽祭」には2008年、2010年に続く出演。音楽を軸とした交流にも力を入れ、2008年、ベツレヘム(パレスチナ)での演奏を仲間とともに実現。ピアノの望月美希氏とはピアノとファゴットのデュオ「もちづきむら」としても活動中。出雲芸術アカデミー音楽院講師。出雲北陵高等学校音楽コース非常勤講師。出雲楽友協会音楽家会員。アザレア室内オーケストラ、アザレア・ミュージック・ファクトリー、ファゴット奏者。
望月 美希
(もちづき みき)Piano
浜松市出身。信愛学園高等学校(現浜松学芸高等学校)音楽科卒業。ブルガリア国立ソフィア音楽アカデミーピアノ科・伴奏科卒業。K. ガネフ、J. ガネバ、本荘玲子、N. タドソン、武藤公子の各氏に師事。在学中にブルガリア各地のオーケストラと共演。94、96年には浜松でソロリサイタルを開く。98~03年にはカリフォルニア大学サンタバーバラ校、テクニオン大学、コネティカット大学で伴奏者及びコレペティトゥアとして活動。08年にはベツレヘムへ室内楽の演奏旅行を行う。近年は、出雲オペラ「カルメン」(07年)、「椿姫」(10年)、プラバ音楽祭「ぺらぺらオペラ・フィガロの結婚」(09年)などでコレペティトゥアを務めるほか、ピアノソロ、室内楽など、出雲および松江を中心に音楽活動を行っている。出雲芸術アカデミー音楽院講師。出雲楽友協会音楽家会員。
ご案内
木村さんのファゴットほど、文句の付け所がなく、巧くて真似のできない表情作りの豊かなものはありません。かつて鳥取県で国体が開催された時、式典音楽を担当する団体の一つになっていた私の勤務する学校に、N響の若き岡崎耕治氏が再三にわたって指導に来ていただいていました。とても気さくな方で親しくお付き合いさせていただきましたが、その時に岡崎氏のアーティキュレーションを覚え込んでしまっていたのです。それから何十年後に、アザレア室内オーケストラのファゴット奏者の伊藤氏(故人)がおんなじ吹き方をするものですから、その話をしたら岡崎先生のお弟子さんでした。伊藤氏が亡くなられた後のファゴット奏者が木村さんであり、またまた岡崎氏の演奏法と同じであったのです。そんなこんなで深い所縁を感じています。
ところで今回の第一部のプログラムは、オール・ロシア音楽です。ロシア音楽のねちっこさ、しつこさがファゴットの音色と合うかどうかは分かりませんが、グリンカのソナタは、こもったような音色がロシアの荒野を思わせるのかもしれません。歌曲のメロディをなぞるだけの様式変更されたアレンジ物は、音楽的に成就しないと言われますので、その辺りの挑戦が聴きものとなるでしょう。二部は、フンメルの曲であり、ファゴットの特性を十二分に楽しめるように書かれていますので、大いに音楽の喜びとその楽しみに期待しています。