吉田明雄ヴァイオリン・コンサート
Piano 蓼沼恵美子
2012年5月19日(土)16:00〜 倉吉未来中心小ホール 700円
第一部
@ ヴァイオリン・ソナタ ニ長調 Op. 1/13, HWV 371(Handel作曲)
ヘンデルのヴァイオリンソナタイ長調。緩-急-緩-急の4楽章から成る。
第1楽章:アンダンテ(歩くような調子で)、4分の4拍子。穏やかさと気品を感じる楽章。
第2楽章:アレグロ(快活に)、2分の2拍子。華やかさをたたえた楽章。
第3楽章:アダージョ(緩やかに)。短調に転じ、短い小節のなかで心に迫る旋律を奏でる。
第4楽章:アレグロ(快活に)、8分の12拍子。次々と多彩なリズムが登場する、明るい中にも優雅さのある終曲。
A ヴァイオリン・ソナタ #9イ長調, Op. 47,クロイツエル(Beethoven作曲)
ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第9番イ長調。ヴァイオリニストのルドルフ・クロイツェルに捧げられたため、『クロイツェル』と呼ばれている。ベートーヴェン自身のつけた題は『ほとんど協奏曲のように、相競って演奏されるヴァイオリン助奏つきのピアノ・ソナタ』であり、ヴァイオリンとピアノが対等であることが特徴。
第1楽章:Adagio sostenuto - Presto - Adagio、イ長調(実質的にはイ短調)。4分の3拍子。ソナタ形式。
イ長調の重厚な和音で始まるが、すぐにイ短調に転調し緩やかな序奏が終わる。主部はイ短調のプレスト(急速に)。展開部は第一主題の発展であるが盛り上がりを見せる。ヴァイオリンは音量が小さいのでピアノに伍するために重音を活用しているが、ピアノはユニゾンで単純抑制された役に徹している。随所にAdagioの部分を挟むことで単調さを避けている。効果的な緩急自在によって中期の傑作といわれている。
第2楽章:Andante con variazioni、ヘ長調。4分の2拍子。変奏曲形式。穏やかな主題が提示されたあと変奏が始まる。第2変奏でヴァイオリンは高音域で存在を誇示している。
第3楽章:Presto、イ長調。8分の6拍子。ソナタ形式。輝かしいタランテラ(イタリア、ナポリの舞曲。3/8または6/8拍子のテンポの速い曲のこと)。終楽章にタランテラを設けるのは中期の作曲者に多く見られる技法である。ここでも適宜拍子を替えて緩徐な部分を挿入し、変化をつけてタランテラの野卑さを抑えている。
第二部
@ グリーンスリーブス(イギリス民謡)
伝統的なイングランドの民謡で、ロマネスカと呼ばれる固執低音(上声は変化していくのに、同じ音声又は同じフレーズに固執し、執拗にそれを繰り返すバス(ベース)の動き)の旋律をもつ。原曲については明らかでなく、作者不詳となっている。去っていく恋人への嘆きを歌う歌詞が付いている。
A ユーモレスク(ドボルザーク作曲)
ドボルザークが1894年に作曲した8つのピアノ曲集。特に第7曲(変ト長調)が有名である。また、クライスラーによってヴァイオリン用に編曲されたことで、多くの人に親しまれるようになった。
B 子守唄(フォーレ作曲)
ゆりかごに揺られる赤ちゃんが見えるような、優しさの溢れる作品。フォーレの子守唄はこの作品16のほか、4手ピアノによる組曲『ドリー』の第一曲もある。
C トロイメライ(シューマン作曲)
シューマンによるピアノ曲集『子どもの情景』の第7曲。各種楽器用に幅広く編曲されている。夢の中のような幻想的な作品。
D 美しきロスマリン(クライスラー作曲)
クライスラーによるヴァイオリンとピアノのための小品。「ロスマリン」とは花の名前のことであり、可愛らしい女性の愛称としての意味もある。3部形式(全体が3つの部分から成り立っている楽曲の形式)の魅力的な、軽快で親しみやすいワルツ。
E 愛の悲しみ(クライスラー作曲)
クライスラーによって作曲された『愛の喜び』と対をなす作品。イ短調。4分の3拍子。簡単な三部形式。その題名の通り、愛することゆえに生じる悲しみや苦悩、辛さが映し出されている。
F 愛の喜び(クライスラー作曲)
『愛の悲しみ』と対をなす作品。三部形式。ハ長調。4分の3拍子。全身で喜びをそのまま表したような、晴れやかな作品。
プロフィール
吉田明雄
(よしだ あきお)Violin
鳥取大学医学部卒業。鳥取大学医学部第一内科助教授退職後、湯梨浜町泊にて吉田医院開業。その後の業績を認められ、鳥取大学大学院再生医療分野特任教授、自治医科大学非常勤講師就任。開業医として地域医療を行い同時に特任教授として研究教育活動を行なう。
音楽分野においては、ミンクス室内オーケストラ代表、鳥取県オペラ協会副会長としての活動に対し県教育長賞を受賞。倉吉ストリングオーケストラ、鳥取大学フィルハーモニー管弦楽団、米子管弦楽団、県民による第九オーケストラなどのコンサートマスターを歴任。ミンクス、アザレア室内オーケストラ、コンサートマスター。鳥取県の音楽家たち出演。西日本医科オーケストラとブルッフの、ミンクス室内オーケストラとメンデルスゾーンの、鳥取大学室内管弦楽団とチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を共演。アザレアのまち音楽祭には2010〜2012と三回目の登場となる。これまでにヴァイオリンを山本喜三、山本弓子、山田衛生、七澤清貴、平井誠、釈伸司、澤和樹、各氏に師事。
蓼沼恵美子
(たでぬま えみこ)Piano
堀江孝子、林美奈子、田村宏各氏に師事。東京芸術大学附属音楽高等学校を経て、東京芸術大学卒業。「安宅賞」受賞。同大学院修了後、ロンドンに留学し、マリア・クルチョ女史に師事。 1983年、ミュンヘン国際コンクール、ヴィオリン・ピアノ二重奏部門で第3位入賞。'96年には、ヴァイオリンの澤和樹とのデュオ結成20周年を記念する連続リサイタルを開催し、好評を得る。現在、吉祥女子高等学校芸術コース、桐朋学園芸術短期大学講師。
ご案内
吉田明雄氏は、私から見ると「ヴァイオリニストになりたかった医師」と見えます。向学心のメインにヴァイオリンを持ちながら、江戸期から続く開業医の長男に生まれた定めにくじけず、シュバイツァーよろしく音楽と医業を両立させている方です。どちらかと言えば、医師としてのキャリアは群を抜いており、湯梨浜町泊の小さな町医者が、甲状腺学会では世界的にも評価され、鳥取大学医学部の特任教授を務めておられます。そして、どうしても忘れられない恋人のヴァイオリンを抱きしめている姿は、愛おしさを越えて敬愛の念に至る感動を、私たちに与えてくれます。一昨年、ミニ・リサイタル・リレーに登場し、アザレア室内オーケストラのコンマスとしての力量を見せ、昨年は音楽祭の本割で見事な音楽を聴かせていただきました。その間に病に侵されもしましたが、ミューズの微笑みを受けて演奏を再開されたのです。しかし、求める音楽の高みは一層増し、一味違った音楽作りを見せています。その要因は、ピアニストの蓼沼恵美子氏からの薫陶ではないかと思われるのですが、未だに通うレッスンの成果かも知れません。才能があると言ってしまえばそれまでですが、東京芸大の澤和樹氏のレッスンを、トップレベルの若い才能たちと共に学ぶ姿勢の中から生まれているのかもしれません。
今回のプログラムは、古典派の名曲を第一部に、良く知られたヴァイオリンの小品を第二部に配し、聴衆へのアピールの仕方も堂に入っています。今回は、会場を倉吉未来中心小ホールに移して公演しますが、更に響きの心地よいヴァイオリン音楽を楽しんでいただけるものと推奨いたします。