2008年6月25日(水) 鳥取オペラ協会自主公演
アザレア・オペラ「電話」メノッティ
〔サロン・オペラとトーク〕
出演/寺内智子(ルーシー)・吉田章一(ベン)
指揮・演出/西岡千秋
ピアノ/新田恵理子
倉吉交流プラザ視聴覚ホール 午後7:30 2,000円
【あらすじ&聴きどころ】
時は現代。場所はルーシーのアパートメント。
非常にコミカルで印象的な前奏曲が終わって幕が開くと、ルーシー(S)とベン(Br)が いる。彼女はベンから送られたプレゼントの包みを開けている。中からオブジェが出てきて、彼女は喜ぶ。ベンは「旅行に行く前に君に伝えたいことがある」と愛の告白をしようとするが、そこへ電話がかかってくる。彼女の友達のマーガレットかららしい。ルーシーはベンにはおかまいなしに、えんえんと内容のない長電話を始める。
ルーシーとマーガレットの電話:この場面は電話をしているという設定上、ルーシーのアリア的な部分で、快活でおもしろい曲である。結構高度なコロラトゥーラも要求される。
やっとのことで電話が終わり、ベンはこんどこそ言おうとするが、また電話がなる。今度は間違い電話である。再びベンが時間はかからないからと、話しかけようとすると、ルーシーは「時間といえば今何時か電話で聞いてあげるわ」と時報に電話して聞く。ベンは話を切り出そうと躍起になるが、今度はジョージから電話がかかってくる。ジョージは何かひどいことを言ったらしく、ルーシーは悲嘆に暮れて電話を切る。ベンはルーシーを慰めようとするが、「あなたにはわからない」と彼女は別の部屋に行ってしまう。ベンは、電話がすべての元凶だと、コードを切ろうとするが、悲鳴をあげるように電話が鳴って、気がついたルーシーに止められる。ベンは時間がないと懇願するが、ルーシーはもう一件だけ電話をかけさせて欲しいと言う。
間違い電話〜二重唱:「間違い電話」から一転して、ドラマティックなメロディラインとなる。特にジョージとの電話は起伏が激しい。その後のベンがルーシーを慰めるメロディは一転してとても甘くやさしい。ベンが電話のコードを切ろうと決心するところは、彼の歌の見せ所でもあるが、これもドラマティックである。そして、続く二重唱は、まるでマドリガルのようなア・カペラの秀逸な二重唱である。ルーシーはさっきのジョージの件をパメラに電話する。もう汽車の時間が迫り、どうしようもないベンは思いが伝えられないことを嘆くが、突然思いついて部屋から出て、近くの公衆電話からルーシーに電話をかける。彼はルーシーに結婚を申し込む。ルーシーはもちろんと答え、毎日電話してねと言う。二人は電話のおかげで愛が実ったと喜び。ルーシーの電話番号「スティーヴドア2349番」と電話番号を称える。
パメラとの電話〜フィナーレ:パメラとの電話はさっきのドラマティックさとは打って変わり、三連符にのったメロディックな音型で歌われ、それに、ベンは二重唱で乗っかる。ベンからの電話から最後までもストレッタ的(フーガにおける追拍部)展開。
【ひとこと】
昨年のアザレア・オペラ「アマールと夜の訪問者」に続く第二弾は、やはり同じ作曲家メノッティのオペラ「電話」です。この「電話」こそ、メノッティの名を世界に知らしめている作品なのです。確かに音楽的に大変優れています。メノッティは、終生プログレッシヴな音楽に傾かず、ロマン派の流れを重視した音楽を書き続けましたが、その集大成と言えるかもしれません。そこには、彼の故郷でもあるイタリアのオペラの伝統への、限りない慈愛が感じられます。例えば、最初の前奏曲がオペラのムードを代表するような出来になっているのは、イタリアオペラにおけるシンフォニアの役割を踏まえているからです。また、最初のルーシーの電話は明らかにロッシーニのアリアの模倣でしょう。(ご丁寧に最後にカデンツアまで付いている)続くドラマティックな部分はヴェルディのパロディのようです。そして、マドリガル的に重唱に続き、パメラとの電話の二重唱は分散和音に乗って歌われることからわかるように、ベルリーニやドニゼッティのパロディだと言っていいでしょう。このように伝統的なイタリアオペラの形式を模倣しながら、独自のスタイルで書いているところに、メノッティの才能を見ることが出来ます。ストーリーはいささか安易に思えますが、それにしても、携帯電話に支配されている現代を予測してのこのストーリーは、メノッティの時代を超えた慧眼でしょうか。ちなみにこのオペラには副題がついており、正式な題名は「The
Telephone or l’Amor a Trois(電話 または 三人の恋)」であり、ロッシーニ時代のオペラ的な題名のつけ方を模倣しているように思えます。もともと「霊媒」と併演する為に依頼された作品ですが、「霊媒」は一足先に単作上演されたので、1947年2月ヘクシャー劇場(ニューヨーク)で「霊媒」再演とともに初演され、大好評で、同年5月、エセル・バリモア劇場(ブロードウエイ)で再演されています。鳥取オペラ協会では、「霊媒」にも取り組んで欲しいものです。
【ソリスト・プロフィール】
寺内智子(てらうちともこ) Sp
大阪音楽大学音楽学部声楽科卒業。同専攻科終了。声楽を天野春美、E・ラッティ、伊藤京子各氏に師事。関西二期会研究生を経て、1998年イタリアへ留学。M・フェラーロ氏によるマスタークラス受講。イタリアにてオペラ「ラ・ボエーム」ミミ役、「カプレーティ家とモンテッキ家」ジュリエッタ役を歌い好評を得る。帰国後も、神戸アーバンオペラ「フィガロの結婚」スザンナ役をはじめ「愛の妙薬」「カルメン」「魔笛」「ポラーノの広場」「沈黙」などのオペラに出演。第29回イタリア声楽コンコルソ金賞、第20回飯塚新人音楽コンクール大賞、第12回ABC新人オーディション最優秀賞を受賞し外山雄三指揮、大阪フィルハーモニー交響楽団と共演。第16回宝塚ベガ音楽コンクール第2位、神戸灘ライオンズクラブ音楽賞、鳥取県声楽オーディション県知事賞等受賞。2006年、鳥取県知事賞受賞者コンサートで関西フィルハーモニー交響楽団と共演。日本演奏連盟会員、関西二期会、鳥取オペラ協会会員。6月28日(木)大阪いずみホールにてリサイタル開催予定。
吉田章一(よしだ あきかず)Br
鳥取大学教育学部卒業。広島大学大学院学校教育研究科修了。声楽を小松英典、西岡千秋、佐藤晨、吉田征夫、平野弘子の各氏に師事。ソロ・コンサート、ジョイント・コンサートのほか、モーツァルトやフォーレのレクイエム、バッハのヨハネ受難曲、ヘンデルのメサイア、ベートーヴェンの第九等のソリストを務める。オペラでは、モーツァルトの「コシ・ファン・トゥッテ」「フィガロの結婚」「ドン・ジョヴァンニ」に出演。特に2002年の国民文化祭オペラ公演「ポラーノの広場」では、主役のキューストを歌い圧倒的な成功をおさめた。昨年の再演では、更にバージョンアップしたキューストを歌い、全国レベルで通用する風格を見せた。又、特筆に価するのはドイツリートに対する造詣の深さと演奏力の高さである。既にCDリリースされているシューベルトの「冬の旅」は、高く評価されている。現在、淀江小学校勤務。鳥取オペラ協会理事。
新田恵理子(にったえりこ)Piano
武蔵野音楽大学音楽学部器楽科ピアノ専攻卒業 倉吉市在住。ソロリサイタル、室内楽、声楽・器楽の伴奏など、各地で幅広い演奏活動を行なっている。内外のオーケストラとの共演も数多く、そのうち、ザルツブルク室内オーケストラ、下北山弦楽オーケストラとのライブ録音が、カウベルホールよりCDリリースされている。後進の育成にも力を注ぎ、各地で門下出身の若手ピアニストが活躍している。主宰するハーモニッシェの会においては、若手演奏家のジョイントコンサートや、ピアノリサイタル、来日演奏家との交流コンサートなどを企画している。全日本ピアノ指導者協会正会員、同鳥取県支部事務局。鳥取オペラ協会ピアニスト。ハーモニッシェの会主宰。
西岡千秋(にしおかちあき) 指揮・演出
武蔵野音楽大学声楽科卒業。同大学院声楽専攻修了。市田キヨ子、疋田生治郎の各氏に師事。数々のオペラ出演の他、リサイタルをはじめとする演奏活動を行っている。また、鳥取県内においては第九公演のソリストを務め、アザレアのまち音楽祭や山陰の名手たちコンサートなど常連演奏家として活躍。鳥取県内公演のオペラでは「電話」「コシ・ファン・トゥッテ」「フィガロの結婚」「魔笛」「ポラーノの広場」「ドン・ジョヴァンニ」「アマールと夜の訪問者」等に出演。鳥取オペラ協会の全ての公演をプロデュースしている。現在、鳥取大学地域学部附属芸術文化センター准教授。鳥取オペラ協会副会長。鳥取合唱連盟副理事長。
〜ご 案 内〜
【アザレア・サロン・オペラ『電話』(メノッティ)】
鳥取オペラ協会公演のサロン・オペラです。鳥取オペラ協会では、これまでサロン・オペラとして、モーツァルトの「バスティアンとバスティエンヌ」を倉吉のBYホールと鳥大芸文センターで公演したことがあります。今回は、アザレアのまち音楽祭の依頼で公演が実現いたしました。出し物は、昨年度公演した「アマールと夜の訪問者」の作曲家「メノッティ」の傑作オペラ「電話」です。実は二十数年前、音の会の公演で、鳥大に着任したばかりの西岡千秋さんが中心となって県内三箇所でサロン・オペラとして上演しています。今回は、ベスト・メンバーというにふさわしいキャストでの公演です。寺内智子さん、吉田章一さん共々、山陰で最高の歌い手です。その演技力も定評があります。男と女の恋のいくえを、コミカルに演じられる大人のオペラです。どうぞ、お楽しみ下さい。