【ディレクターの回答】
　県内若手歌手の中で、ナンバーワンの実力を見せつけるコンサートになりました。ピアニストも、当代きっての名手であり、最高のスキルを発揮したと思います。アンケートコメントにも指摘されていましたが、日本歌曲においては、無理のないオーソドックな表現力をものしており、特に言葉の明瞭さが光っていました。ピアノとの相性も良く、アンサンブルとしてのセオリーをきちんと守るオーソドックな演奏は、近年まれにみるものでした。
二部のオペラチックな楽曲は、中原氏の本領発揮とも言うべき魅力的な歌唱が続きました。「ルサルカ」のアリアは、独自の解釈で、一味違った表現が楽しめました。プッチーニやヴェルディについては、よく練られた表現であり、群を抜いた演奏であり、素晴らしい。

【ディレクターの感想】
　第一部のバロック音楽はとても良かったと思います。やはりオリジナル曲は、聴いていて快感がありました。しかし、ポップスやロマン派では、聴衆の皆様はご満足のようでしたが、「しおらしさ」とも言うべきか？表現を控えた演奏に聞こえました。特に「カルメン」からの「ハバネラ」は、自由奔放なカルメンではなく、清純可憐なミカエラが歌っているように思えました。楽曲の演奏は、演奏者の個性とか特質を出すものではなく、曲の持っている音楽を演ずるものでなければなりません。演奏者が「かまとと」なのか、本当にうぶなのかわかりませんが、少女のように夢見る演奏ではカルメンのアリアにはなりません。音楽自体が持っている様式感を明確に打ち出す演奏でなければ、聴衆は納得しなくなるでしょう。「A列車で行こう」も、スイング感が出ておらず、聴衆からも指摘があったようです。
　ロマン派以降の音楽は、楽譜に指示された通り演奏すれば、とりあえず音楽になるものです。これはロマン派音楽の大きな特質だと思います。
　演奏中に重大なリードのミストーンが二回もあり、音楽を壊してしまうのはいただけないです。これは、事故の一種でどうにもならないことはわかっていますが、万全を期すこと必須です。様々な注文を付けましたが、杉山さんのメロディの作り方は素晴らしく、いつも聴衆を魅了しています。また、フレーズの聴かせ方も堂にいったものであり、メロディ自体の持つ言葉をよく捕まえていて、的確に表現するのは流石だと思いました。

【ディレクターの回答】
　何とも大らかな演奏だと、十二分に音楽が楽しめました。ドビュッシーのピアノ曲を、あそこまで歌わせる演奏に出会ったのは、久方ぶりです。まるで、ピアノの中に歌手が入っていて歌っているのではないかと思わせるのです。これは並の事ではなしえない見事な演奏でした。特に、歌謡性が求められるレスピーギにおいては、何とも甘美な歌声が紡ぎだされ、心を奪われました。歌う事の本質(訴ったう)を体得し、感興の赴くまま奔放に演奏し、聴衆の心を鷲づかみにしていく様は、最早ベテランの域に達しているようです。これまでプロ奏者とのアンサンブルやオペラ歌手たちとの共演の中から、掴み取った力だと感じました。素晴らしい技術的なスキルを越えたところで、音楽する術を、すっかり自分のものにしているようです。鳥取県にも、次世代を担う優れたピアニストが誕生した瞬間に居合わせた気がして、何とも言い難い幸福感にひたっています。

【ディレクターの回答】
　スマホの件は、大変申し訳ありません。今後は開演前に注意を促すアナウンスを致します。

【ディレクターの回答】
　やっぱり、テレマンのファゴットのために書かれた作品は素晴らしい出来だったと思いました。しかし、E.バッハのフルートのための曲を、楽器様式をファゴットに代えての演奏も捨てたものではない事を悟らせる名演でした。フルートの音域をファゴットに置き換えるのは、ソプラノのアリアをバスが歌うような違和感があるはずですが、やはりバロックの音楽はその辺りの融通性があるようです。バロックオペラのアリアを現代では声域に拘らずかなり自由に歌っていますから、器楽でもありと言う事でしょうか。
とてもうまいピアニストですが、メンデルスゾーンのソナタでは、ソリストのファゴットとピアノは対等な関係であり、重利氏の力量に期待しました。しかし、ピアノの主張が強すぎる場面が多々あり、音量のバランスが崩れたようです。ファゴットとピアノの対話のはずが、時としてピアノが勝ち過ぎたようです。聴く方がメンデルスゾーンに忖度して聴かなければならないのは、やはり、違うのではないかと思いました。聴衆をもっと上手に騙して、素晴らしいと思わせて欲しいものです。

【ディレクターの回答】
　とても楽しめるコンサートだったと思います。声が太くなり強靭な高音が可能となったように感じられたのは、私一人ではないようでした。何はともあれ、毎年進化を続ける松田さんの今後が、ますます楽しみになりました。